職場ではもう新人とは呼ばれなくなり、逆に仕事を任されるようになって、やりがいを感じて仕事に取り組む日々ではないかと思います。
でも、パパとしてはまだ新人。なかなか理想通りにいかない子育てに、悩むことはないでしょうか?
私は32歳の時に最初の子どもが生まれました。
当時、私は自分の医師としての能力を開拓するため、慣れ親しんだ日本の病院からアメリカの病院に移り、2回目の研修医として仕事を開始していました。
英語や異なる医療システムに慣れるための苦労もさることながら、研修医として4日に1回の当直があり、心身共に消耗していました。
でも初めての子育てと職場での自己実現、その双方に真正面から取り組み続けたことで、見えてきたものがあります。
今回は、忙しい仕事をしながらも新人パパとして取り組むことができる子育てについて、私自身の経験も交えて解説したいと思います。
仕事だけでなく、家族ともしっかりと向き合うあなたが、どのように育児と関わると良いのか、一緒に考えていきましょう。
もくじ
父親の育児の出発点:生涯にわたる「絆」の土台づくり

忙しいパパが、育児という未知の領域に飛び込む前に、これからのパパを支えてくれることにもつながる2つの「絆」作りについてまず説明します。
それはパパの生涯を通して重要になる、「夫婦」と「子ども」との関係の土台を作ることです。
父親の育児の出発点① 夫婦の関係づくり

子育ては、夫婦の共同作業です。父親が育児に取り組むにあたり、子どもとの関係を作る前に、共同作業を進めるために夫婦の関係作りが大切です。
恋人であり妻であった奥さんは、子どもができると母親になっていきます。
家庭内で2つの役割をこなす奥さんのパートナー、支援者としての役割が、パパとなったあなたに期待されています。
まずはお互いの信頼関係、お互いへのリスペクトが、全ての基盤になると言っても過言ではありません。
私は2つのことを実践しました。
感謝の言葉を口にする

忙しい日々を送っていると、二人で過ごす時間も限られ、会話も少なくなってしまいがちです
でもどのような状況にあっても、「ありがとう」の一言は伝えることができます。
すれ違いの生活のために直接伝えられなくても、メッセージカードで伝えることは可能です。
自分が仕事のためにできない家庭内のことを、奥さんがしてくれている、そう思うと自然と感謝の気持ちが湧いてきます。
全てができていなくても、できていることに感謝します。ただ、素直に気持ちを表現するようにしています。
そしてその感謝の言葉は、子どもたちが大きくなってくると、子どもたちの前で伝えるようにしています。
父親が母親に感謝している姿、母親をリスペクトしている姿勢を子どもに伝えることで、子どもたちが母親をリスペクトするようになります。
奥さんに感謝の気持ちを伝えていると、奥さんも私に感謝の言葉をかけてくれるようになりました。
そして私が不在の間、子どもたちに父親がどのように頑張っているのか、母親としての感謝の気持ちを、子どもたちに話をしてくれるようになったようです。
そのことが関係しているのかわかりませんが、結婚して20年がすぎた私たちは、いまだに喧嘩をしたことがありません。これも感謝なことです。
子どもの教育方針を明確にする
2人の共同作業ですから、どのような方向へ向かうべきか、事業のビジョンは明確に共有しておくほうが良いでしょう。
ここで親の願望を子どもに託したい方がおられるかもしれませんが、子どもには子どもの人生があります。過度に負担を強いることは避けた方が良いと思います。
私たちは、「世の中の人々に貢献する人になる」、そのために必要な機会は惜しみなく提供することを、教育方針にしています。
また私たちは、「子どもを未来の社会に役立つ存在として育て、社会に還元する仕事を与えられている」と、考えるようにしています。
そして何よりもその目標に、自分が到達できるように日々研鑽を積んでいます。私自身が、社会にどのように貢献するか絶えず考え、行動するようにしています。
父親の育児の出発点② 子どもとの関係づくり

母親は、子どもが生まれる前から子どもとの関係を作り始めることができますが、父親は子どもが生まれてから始めることが一般的ではないかと思います。
でも、言葉もわからない子どもと積極的に関わることに、意味はあるのでしょうか?
アメリカのメリーランド州で、1970年代に興味深い調査が行われています。
生まれたばかりの赤ちゃんと両親との関係を長期間観察したところ、赤ちゃんが愛着行動を示す時、最初は両親に同じようにアプローチしていました。
その後の親子関係には、赤ちゃんとの交流における親の行動の違いが影響していました。生きていくのに必要な世話をするために赤ちゃんを抱くことが多い母親と異なり、父親は遊びのために赤ちゃんを多く抱いていました。
その結果、成長した赤ちゃんは、遊ぶ時に父親に対し積極的に反応するようになっていました。
これは、家庭内における男性と女性の役割の違いが影響している可能性は十分あります。つまり父親が積極的に授乳を手伝えば、赤ちゃんの反応も変わりえます。
ただ、いずれにしても生まれたばかりの赤ちゃんへの父親の関わり方は、その後の関わりに影響することは事実といえます。
生まれたばかりで言葉も話さない子どもに話しかけたり、抱いたりすることは、無意味に思えるかもしれませんが、その後の関係づくりの基盤となります。
忙しい日々で難しいことかもしれませんが、子どもに積極的に関わるようにしましょう。
父親の育児:忙しくてもできること

では次に、忙しいパパでもできる育児について説明します。
まずは、育児のために時間を確保するコツや重要性、また少し逆説的ですが、仕事にやりがいを感じるパパだからこそ、仕事へ真正面から取り組む重要性について解説します。
最後に仕事と育児の両立に必要な「捨てるべきもの」をご紹介します。
家族のために、子どものために「時間」を確保しよう

あなたにとって、これまでは仕事が一番であったかもしれません。
その姿勢を崩さないまま、子どもと交わる時間を確保するのは至難の技ではないかと思います。
でもどうしても忙しい時には、1日のルーティンワークのなかに家族との時間を確保してはどうでしょうか?
例えば、朝食前の10分を読み聞かせの時間にする、お風呂は一緒に入るなど、なんでも構いません。
量よりも質が大事です。ただ決めたことは、何があってもルールとして守り通す意思が必要です。
アメリカの20都市に住む、約4,900家族を観察した『Fragile Families and Child Well-Being Study』という研究があります。
このデータの一部を用いた解析によると、子どもが1歳の時に父親が子どものために割いた時間と、子どもが9歳の時に父親に対して持つ感情には、正の相関関係がありました。
つまり子どもが1歳の時に父親が遊びや会話などを通して積極的に子どもに関わっていた場合、9歳になった子どもは、父親により信頼を感じ、良い感情を持っていました。
そしてその感情は、1歳以降9歳までの間、父親が子どもと同居していたかどうかに関係しませんでした。
私は夜間仕事に出ることもあり、不規則な生活を送っていました。
でも仕事中でも子どもたちが寝る前に電話し、一言だけでも会話することを心がけました。
これはアメリカにいた時の私の上司がしていたことで、その家族愛に心打たれ、私も真似をして始めました。
子どもが思春期になると会話の量は減りますが、どれだけ忙しくても家族のことを思う時間を確保しています。
自分の仕事に誇りを持ち、仕事に全力で取り組もう

これまで仕事を一生懸命頑張ってきたあなた。自分の強みを生かし、仕事をさらに伸ばす時期ではないかと思います。
もしかしたら昇進や転職も視野に入る時点かもしれません。
家族のために仕事を犠牲にする、という考え方もあるかもしれませんが、家族も仕事も守りたいあなたは、何よりも家族に自分の仕事について誇りを持って語れるくらい、仕事に専念するのが良いのではないかと思います。
この姿勢が社会におけるあなたの価値を高め、そして将来子どもがあなたを尊敬できるかに関わってきます。
私は一時自分を見失うほど苦労をしましたが、アメリカでの研修をやり遂げ、30代後半で日本に帰国しました。
辛さのあまり子どもの寝顔を見ては涙する日々もありました。
しかしビジョンだけは守り続けた結果、私は仕事を選べる立場になることができました。
複数の施設から、仕事のオファーをいただけるようになり、帰国後も自分が本当にやりたい仕事を選ぶことができました。
自分の仕事に誇りを持つことができると、自宅でも仕事への情熱を家族と共有することができます。
そして子どもたちが興味を持って、仕事をしている私の姿を見にくるようになりました。
子どもは父親の仕事の話を聞くことで社会に興味を持ち、仕事をしている姿を見ることで、より自分の将来の姿をイメージするようになったようです。
でも何かを犠牲にする必要があるかもしれません

ただ、どうしても時間の制約が出てきます。
パパによっては、止むを得ず仕事の時間を削らないといけない方もいるかもしれません。
どうしても時間がない時には、人生における優先順位を決め、順位が低いものは一時的にでも削る決断も必要になるでしょう。
パパの持つ器のなかにより重要なものを入れるために、不要なものを一時的にでも断捨離することです。
月並みですが、付き合いの飲み会は子育てを言い訳に断る、一人でやる趣味は子どもが一緒に楽しめる年齢になるまで控える、などが考えられることです。
私の場合は、時間ではありませんが、自宅での自分の空間を犠牲にしました。
アメリカの研修医時代は最低賃金に近い給与でしたので、もともと狭い家にしか住めませんでした。
それでも本当は自分の勉強スペースが必要でしたが、あえて自分の勉強空間と子どもの遊びのスペースを一緒にしました。
勉強中に、子どもが私の膝によじ登ってきて、気が散って仕方ありませんでした。私の真似をして、パソコンのキーボードを叩きまくる姿は、微笑ましくもあり、ハラハラもしました。
でも、そんな期間も長くは続きません。今も当時の机を使っていますが、私の不在時に子どもが机に思いっきり描いた落書きは、まさにプライスレスの宝物です。
父親の育児:うまくできない時にどうしよう

精一杯頑張っていても、うまくできないことが出てくるかもしれません。
でも大丈夫です。
仕事でも、うまくいかない時はうまくいかない原因を考え、工夫をしているはず。子育ても同じです。
うまく出来なくても大丈夫
仕事と育児の両立を頑張りたいと思い頑張り出したものの、どうしてもうまくできない、と自暴自棄になってしまうことがあるかもしれません。
どうしてもうまくいかないことがあっても大丈夫です。 完璧な人間はいません。
うまくいかないのは、計画に無理があるか、計画を立てた時から環境が変化したからであって、あなたがダメなわけではありません 。
大切なことは、うまくいかない事実を受け入れ、無理をしないでできる方法を考え直すことです。
実は私はアメリカにいた時、どうしても公衆衛生の勉強がしたくなり、研修医をしながら社会人大学院に通いました。
ところが実際に大学院に通い始めると、あまりの課題の多さに驚きました。大学院での勉強を甘く見ていた自分が悪かったのですが、当然、家族と過ごせる時間が激減しました。
でもそんな時、先にご紹介した子どもの遊びの空間で一緒に勉強することで、学びと子どもとの時間の両立を図ることができました。
もちろん勉強の効率は落ちるので、ワンタームにとる単位数を減らし、仕事、育児、勉強のペース配分ができるように調整し、他の学生の2倍以上の時間をかけて、無事卒業することができました。
できることに再チャレンジ

無理をしないでできる方法を考え直し、やるべきことを見直し、再度チャレンジしてみてはどうでしょうか?
共同作業のパートナーである奥さんに、素直に相談することも良いアイデアだと思います。
「忙」という言葉は、「心」を「亡す」と読めます。忙しい時期が続くと、どうしても心に余裕がなくなり、殺伐とした気持ちになってしまうものです。
私は忙しい時だからこそ、心を落ち着け、瞑想する時間を確保するようにしています。
そのなかで、自分がやっていること、家族との接し方を少し高い視点から見直し、本当に自分が進むべき道に進んでいるのか、振り返るようにしています。
私も人間ですので、当然間違えることはたくさんあります。
でも時々軌道修正し、結果的に大きく道を逸れることがないように心がけています。
「奥さん、そして子どもと良い関係を築きたい」という方向性を絶対見失わず、挑戦を続ける限り、少しずつ理想に近づいていくでしょう。
仕事と育児、どちらもビジョンを持って諦めない

最近、一番上の子が「将来は医者になって、特に心の病で苦しんでいる人たちの役に立たちたい」と言うようになりました。
子育ての成否を子どもの進路や成績で論じる方がおられます。そのことに異論を唱えるつもりは毛頭ありません。もちろん私も気になります。
でも子どもが自分の言葉で未来を語り、自分の意志で社会に貢献する方法を選択し、それが私が誇りを持っている仕事と同じであることを知った時、30代に仕事と子育てに取り組んだ時の判断は大きく間違ってはいなかったのではないか、そう感じるようになりました。
あなたも先が見えないなかで苦しく感じることがあるかもしれません。
でも、仕事と育児、どちらもビジョンを持って諦めないでやるべきことを継続することで、必ず結果はついてきます。
何よりも、もうあなたは一人ではありません。一番の理解者である奥さんがおり、守るべき家族があります。
育児と自己実現、双方において望んでおられる成果を手に入れられることを願って止みません。
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